ゼロから学ぶ更年期の基礎知識〜第2弾〜 更年期の症状はどうして起こるの?不調を起こす3大要因

更年期について知っておくべき正しい基礎知識を、更年期医療の第一人者である後山尚久先生に3回にわたって教えていただくこの企画。小さな変化から生活に支障をきたすほどの大きなトラブルまで、多種多様な形で現れる症状について教わった第1弾「つらいのは更年期のせい?不調を感じる時の正しい向き合い方」に続き、第2弾となる今回は、それらの症状を引き起こす原因がテーマ。閉経までのホルモン周期のパターンが深く関わる更年期だから、ホルモンが主な原因と思われがちですが、現実はもっと複雑で3つの要因が潜んでいるのだそう。50歳前後の女性が思わず共感してしまうその要因について、早速教えていただきましょう。
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教えてくださったのは、
大阪医科薬科大学 健康科学クリニック 名誉所長
後山尚久 先生
大阪医科大学卒業。大阪医科大学産婦人科助教授、藍野学院短期大学教授、大阪医科大学健康科学クリニック教授などを経て、2020年より現職。漢方医学をベースに、女性のさまざまな悩みに応える。著書に『更年期 からだと心の変化で悩む人に』(NHK 出版)などがある。
更年期がつらいのは、ホルモンだけが原因ではない
第1弾でお話ししたように、閉経の前後5年の10年間を指す更年期は不調を感じやすい時期です。人それぞれに現れるその症状は、倦怠感やめまい、動悸、ホットフラッシュといった身体の症状から、不眠やイライラ、気力低下などの精神症状まで、タイプも程度も異なります。閉経に向かって女性ホルモンの量が減ることにより、さまざまな変化が起こる時期なので、もちろんホルモンが原因の場合もありますが、それだけではないのが更年期の難しいところ。実は50歳前後の女性ならではの3つの要因があり、人によってはそのすべてが重なっている場合もあるのです。まずは、その3つの要因をご説明しましょう。
【要因1】ホルモンの変動
まず1つ目は、女性全員が経験するホルモンの変動です。
年齢を重ねることで卵巣の機能が低下し、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減ってきます。早い人は40歳代の中頃から、遅い人でも52~53歳頃と、人によってばらつきはありますが、多くの女性は50歳前後で急激に減少します。
それなのに、脳は今まで通りに「女性ホルモンを出しなさい」という指令を卵巣に送ります。でも、機能が低下した卵巣は力がないので出すことができない。すると脳は、「どうして出さないの?」とさらに強く指令を出します。この指令を出す脳の下垂体という部分は、自律神経を管理している視床下部という部分のすぐ隣。「出しなさい!」と強く指令を出すうちに、隣にある自律神経の中枢が影響を受けることで、ホットフラッシュなどの症状が出てしまうのです。

【要因2】ストレス
2つ目の要因はストレスです。
真面目でがんばり屋さんの女性ほど、ストレスによって更年期の症状が出てしまうのです。長年診察していると、40歳代の半ばから50歳前半は、女性が最もストレスを受ける時期であるように思います。社会的には、会社で多くの仕事を任されたり、上司と部下の板挟みになったり。家庭では、子どもの学校のPTAや受験、親の介護など、大変なことが重なったり。特に現在は新しい生活環境の中で人との会話が少なくなり、自分のアイデンティティを失いそうになることも。そんな時、誰かに相談できればよいのですが、真面目な人ほど一人で抱え込んでしまいがちです。すると、女性ホルモン自体は年相応に緩やかに減っているにも関わらず、ストレスによって自律神経が乱れてしまいます。

【要因3】性格
3つ目は、もともとの性格や物事のとらえ方、考え方が要因となるケースです。
50歳という年齢は、誰でも何かしら身体に変化が起きてくる時期でもあります。もちろん病気の疑いがあれば、すぐに受診が必要ですが、小さな不調ぐらいなら、深く悩んだり、落ち込むことはありませんよね。けれども、なんでも悲観的にとらえてしまう人や、一つのことにとらわれていつまでも頭からそのことが抜けない人、ちょっとしたトラブルでも心に大きなダメージを受けてしまう人などは、ほんの小さな変化でさえ、敏感に反応して思い悩んでしまいがち。そうなると、気持ちが暗くなり、食事がのどを通らなくなるなど、日常生活にも支障をきたし、それらがストレスとなって、更年期の症状を引き起こしてしまいます。ひどい場合は、治療が必要な「更年期障害」になるほど症状が強くなることもあるのです。

更年期は前向きな人ほど乗り越えやすい!
第1弾でもお話ししましたが、更年期の症状はその人の弱いところに現れやすいものです。特に精神的な症状は本来の性格が影響しやすく、上でお話しした2つ目、3つ目の要因を見ても、物事を悪く考えがちな人のほうが症状が重くなりやすいことが分かりますよね。実際に診察していても、物事を前向きにとらえられる人、悩みを相談できる家族や友だちがいる人、自分の思いを口に出せる人は、たとえ症状が出ても比較的早く治ったり、更年期をスムーズに乗り越えやすい傾向がみられます。一方、心身の不調を覚えた時、元気じゃない自分を認めることができず、「こんな私じゃだめ!」とか、「どうしよう、どうしよう。何とかしなきゃ」と焦ってうろたえる人は、更年期の症状がどんどん重くなっていきます。普段からできるだけ一人で抱え込まず、気持ちをおおらかに持つことを心がけながら、更年期を過ごせるといいですね。
閉経も更年期も、女性の身体を守るため
身体にさまざまな不調が現れるのに、前向きには考えられないかもしれませんが、更年期にもちゃんと理由があるんですよ。
女性の身体には、子孫を残すための生殖能力があります。その能力は、昔は38歳ぐらいまでが限界でしたが、今は43歳ぐらいにまで伸びています。けれども妊娠・出産は、女性の身体にとっては一大事。高齢で妊娠すると、身体へのダメージは計りしれず、さらに、繰り返す生理の負担も小さくはありません。
生殖能力があるということは、ずっとそんな負担がかかり続けるということなので、女性の身体は50歳前後から徐々に女性ホルモンの分泌を減らし、生殖能力がなくなるようにあらかじめプログラムされているのです。
私は、閉経は生理や妊娠から女性を卒業させてくれる節目で、更年期は少ない女性ホルモン量で生きていくことに慣れる準備期間のようなものだと思えるんです。すべては女性の身体を守るためなのです。

更年期は自分の身体を見つめ直すチャンス
女性ホルモンが減少するのは身体の仕組みとしては自然なことですが、困った問題もあります。女性ホルモンは、さまざまなところで女性の身体を守ってくれていた鎧のようなもの。その鎧があったからこそ、男性よりも太りにくく、健康リスクが低かったのは事実です。ところが、女性ホルモンが減って鎧を脱いでしまうと、体を守る仕組みがひとつなくなり、コレステロールや中性脂肪は一気に増えやすくなるので、健康リスクが高まり、男性と同じ程度に脳梗塞や心筋梗塞、狭心症、糖尿病などにかかりやすくなってしまいます。さらに、骨密度が急激に下がりやすいので、骨粗鬆症のリスクは男性よりもはるかに高くなるのです。
先ほどの話にも繋がりますが、更年期は女性が新たなステージに進む時です。身体が大きく変わっていくので、今まで通りの生活を続けていては、病気にかかりやすくなる可能性があります。
そこで、更年期を自分の身体を見つめ直すチャンスととらえ、食事や運動に気を配って、健康な身体づくりを目指してみてはいかがでしょうか。前向きになることで、精神にも身体にも良い影響があると思いますよ。

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