ドライアイ症状の根本的な解決に挑む!ロート製薬の研究最前線

2003年に行われた調査※1によると、日本国内のドライアイ患者数は約2,200万人。およそ6人に1人がドライアイを発症しているという計算になりますが、その数は年々増加傾向にあるとも言われています。長時間のPC作業はもちろん、エアコンによる空気の乾燥やスマートフォンの使用、コンタクトレンズ、加齢までもが原因になるとあって、もはや誰にとっても他人事ではありません。また、疲れやかすみなど、つらい目のトラブルの中でも、特に症状が深刻なのもドライアイの特徴。多くの人を悩ませるこの現代病ともいうべきトラブルを根本的に解決したい。その想いで、ロート製薬では長年ドライアイの研究を続けています。結果、何が解明され、どんな対策が可能になってきたか。今回はロート製薬が取り組むドライアイ研究の最前線をレポートします!
※1 2003年 京都府立医大 横井則彦准教授(当時)らの都市域での調査
“ドライアイ”は涙液の「量」だけでなく、「質の低下」も問題
ドライアイは、さまざまな要因により、涙液の安定性が低下したり、不快感や見にくさ、目の表面の傷などが生じた状態です。以前はドライアイは「涙液が減少して角結膜上皮(目の表面)が乾燥するために障害を受ける疾患」、つまり、涙液の量が少ないことが原因ととらえられ、水分補充中心の治療が行われていました。ところが、近年急速に研究が進む中で、涙液の質の低下も大きな問題であることが解明されました。ドライアイの種類には、涙液の量が少ない「涙液減少型」に加えてもう一つ、質の低下で涙液が蒸発しやすい「蒸発亢進型」というタイプがあります。
「涙液減少型」は、涙液の代わりとなる水分を補うことでケアできますが、「蒸発亢進型」は、本来なら乾きから守ってくれるはずの涙自体が蒸発しやすいため、問題は複雑です。ただ水分を補うだけでなく、涙液を安定化させることが大切なのですが、その実現は難しく、「蒸発亢進型」ドライアイの改善アプローチは、なかなか生まれませんでした。
安定した涙液で角膜を覆うように均一に広げる技術の確立

涙液が不安定になると、目の表面が乾き、空気にさらされて、痛みを感じることにもつながります。そんなつらい症状を防ぐためには、涙液が蒸発しにくく、かつ涙液層を安定させるアプローチが必要になります。
そもそも涙液は、涙を角膜につなぎとめるムチン層、水層、油層の3層構造からなり、蒸発を防ぐために大切なのは一番外側の油層です。そこでまずロート製薬の研究所では、目の上で油層を均一に広げる処方技術の確立にチャレンジしました。しかし、油と水は正反対の性質。水に油を垂らしただけではなじまないので、両者をつなぎとめる成分が必要です。しかも、ただつなぎとめてなじむだけでは不十分で、角膜を覆う層として、均一に広がることが重要なのです。どの油にするか、なじませる成分はどれにするか、それぞれの配合比率をどうするか。組み合わせを変え、比率を調整しながら試行錯誤を重ねた末、油を角膜の表面に均一に広げる技術を確立したのです。
瞬きの度に起こる、まぶたと角膜のこすれ=摩擦を減らすアプローチ
まばたきは本来、涙腺から出る涙液を角膜の表面に運んで広げるものであり、その涙液は、まばたきの際にまぶたと角膜がこすれないように、クッションの役割も担っています。ところが、ドライアイ症状があると、涙液の量や質が低下することでそのクッション性が落ち、まばたきの度にまぶたと角膜がこすれあって、摩擦が生じてしまいます。すると角膜がダメージを受け、傷ついて表面が荒れたり、ドライスポットという部分的な乾燥ができたりと、ドライアイ症状が進んだ状態に。これでは、いくら涙液の質が高まったところで、均一な涙液の層ができません。最近の研究では、目のゴロゴロする不快感も角膜の摩擦が原因と言われていることもあり、ドライアイ研究を進める私たちには見過ごすことができない大きな問題でした。
涙液の質を上げると同時に、摩擦を軽減することが欠かせないと確信して、研究を進めました。摩擦を抑える効果のある様々な成分をスクリーニングした結果、うるおい成分として配合していた成分が、まぶたと眼表面の摩擦を軽減するクッションのような役割も果たすことが分かり、新しいアプローチとして採用しました。

角膜表面上の傷を治す「幹細胞」の研究
ロート製薬が目指しているのは、潤いを補い、乾燥を防ぎ、角膜の摩擦を軽減してダメージを抑えることだけではなく、ドライアイを根本的に解決することです。そこで、私たちは、角膜表面の傷を治すというアプローチも追求しました。
ロート製薬では、様々な分野で再生医療研究への取り組みを進めており、「幹細胞」の研究にも力を入れています。ドライアイ研究においても、角膜由来の幹細胞を用いた、新しい研究を進めています。
角膜の輪部では、角膜上皮細胞を生み出す「幹細胞」が存在しており、新しい細胞を生み出すことで角膜表面にできた傷を治すことができています。その修復力を上げるには、この働きがより活発に行われる必要があるのですが、私たちは様々な検証を重ねて、硫酸マグネシウムを添加することにより幹細胞が働きやすい環境を整えることができる、という技術にたどり着きました。
この新しいアプローチによって、ただ症状を抑えるだけではない、ドライアイの根本的な解決にまた一歩近づいたといえます。
近年急増するドライアイは、ますます深刻度を増していくと思われます。ドライアイの実態がより詳細に解明されるにつれて、ドライアイへの新しいアプローチの研究も進んでいきます。今回ご紹介したような最新のドライアイ研究を積み重ねて、痛みまで感じるようなドライアイを、根本的に解決する一助となれば嬉しいです。いつまでも健やかな眼を守るために、これからも研究に取り組んでいきます。